河野太郎氏が語る「再処理工場の秘密」


http://vanillachips.net/archives/20060816_1625.php

 8月11日に、衆議院議員の河野太郎さんを講師に迎えまして、このブログでも以前
より取り上げていた核燃料再処理の問題について講演していただきました。
 当日は平日昼間であったにも関わらず、こちらで設けていた定員ぎりぎりの58名の
方にご参加いただきました。地元仙台はもちろん、岩手、山形、福島という隣県や、あ
るいは東京や横浜からいらっしゃった方もいて、反応の大きさに自分自身驚いたくらい
です。お忙しい中駆けつけてくださったみなさま、本当にありがとうございました。
 また、法務副大臣という激務の中、快く講師を引き受けてくださり、とても分かりや
すく、聴衆を引き込むお話をしてくださった河野太郎さんには大変感謝しております。
連絡・調整に当たってくださった事務所の方々や某代議士さんおよびそのスタッフの
方々にも大変お世話になりました。改めて御礼申し上げます。
 そして、この企画を手伝ってくれたスタッフ、ご協力いただいたみなさまにも大変感
謝しております。多くの方のお力添えがなければ今回の企画は決して成功させることは
できませんでした。
 それでは、これより何回かに分けて、今回のセミナーの様子についてお伝えしていき
たいと思います。再処理の問題を考えていただくきっかけになれば幸いです。


■核燃料サイクルとは何か
 みなさん、こんにちは。河野太郎でございます。話に入る前に、使用済み核燃料と高
レベル放射性廃棄物の違いがわかるという方はどれくらいいらっしゃいますか。それで
は、そこの説明から入りましょう。
(ホワイトボードに書く)
 ウランです。ウランをとりあえず鉱山から取ってきて、加工してウラン燃料というも
のを作ります。ウラン燃料をどうするかというと、原子力発電所で燃やして発電します
(注1)。ここまではいいですよね。
 ウランを燃やすとウランの燃えかすが出てきます。これが使用済み核燃料。使用済み
核燃料とは何かというと、ウランを燃やして出た燃えかすです。本来なら、燃料を燃や
して燃えかすがでました、燃えかすを処分しましょうで終わりです。しかし、使用済み
核燃料の場合はそうではありません。この使用済み核燃料を再処理するとプルトニウム
が採れて、高レベル放射性廃棄物という第二段階のごみが出ます。
 このプルトニウムを高速増殖炉または英語でFast Breeder Reactorというもので燃や
すと、投入した以上のプルトニウムが出てきます。今から3、40年前に、日本で原子力
発電をやろうよと言ったときに、その頃の人は何を考えたかといいますと…。
 ウランというのも貴重なものであります。日本ではあまり出ない。ウランを取ってき
て、ウラン燃料を作って原子力発電所で燃やして使用済み核燃料が出てきて、それを再
処理するとプルトニウムというものが出てきて、プルトニウムを高速増殖炉で燃やす
と、不思議なことに投入した量以上のプルトニウムを取り出すことができるので、その
プルトニウムをもう一度使って発電して…。
 これができるとウラン燃料とプルトニウムで千年単位で発電することができるように
なります。だからこれを夢の核燃料サイクルと当時は言ったわけです。当時も今も、日
本は石油が出ませんから、中近東から石油を買ってこなきゃいかん。石油ショックとい
うものがありましたので、何とか日本独自のエネルギー源を開発しなきゃいかん。ウラ
ンはどこかから買ってこなきゃいけませんから、必ずしも国産ではありませんが、使用
済み核燃料を再処理して取り出したプルトニウムは準国産。
 だから、高速増殖炉でプルトニウムを増やしていけば、中近東の石油に依存せずに日
本はエネルギー源を確保できる。すばらしい夢の核燃料サイクル。これをやらなきゃい
かんと、だいたい30年くらい前に国の方針を決めたわけであります。
 なかなかすばらしいアイデアですよね。若干いくつか問題がありますが。大筋からい
くと非常にいいじゃないかとなるわけですが。問題がいくつかあります。一つはこの核
燃料サイクルを実現するためには高速増殖炉でプルトニウムを燃やさないとなりませ
ん。高速増殖炉というのは30年前にはなかったんです。高速増殖炉でエネルギーを取り
出して商業的に収支が合うようになる、要するに高速増殖炉が実用化されるのは30年後
だと、その30年前に言っています。
 政府の文書でも、30年経ったら高速増殖炉ができるから、プルトニウムをそこで燃や
すことができると書かれていて、なるほどすばらしい、と思って30年経った。しかし、
高速増殖炉は完成しませんでした。最近出した政府の文書ではなんと2050年までは高速
増殖炉はできないと言っています。
 30年前に30年後と言っておいて、30年経ったら50年後だと言う。50年たったらどうな
るかわかりませんが、ひょっとしたら100年後くらいになると言っているかもしれませ
ん。
 「もんじゅ(注2)」って聞いたことある人いらっしゃいますか。だいたいみなさん
ご存じですね。「もんじゅ」は高速増殖炉の実験炉ですから、あれで技術を確立させて
おいてさらに商業化に向けて前に進めようというものです。特に「もんじゅ」で難しい
のは、普通の原子力発電は冷やすために水を使いますけれども、「もんじゅ」は冷やす
ために液体ナトリウムを使う。ナトリウムというのは空気に触れると、大変な化学反応
を起こして燃えるので、ナトリウムをどう扱うかというのが難しい。「もんじゅ」でな
んとかその技術を身につけようとしていたわけです。
 ただ、「もんじゅ」がうまくいったからといったってすぐに商業的な電力発電ができ
るというわけではなく、原型炉である「もんじゅ」を成功させて、さらに、実証炉、商
業炉と、規模もどんどん大きくしなければならないし、そのたびに取り扱うプルトニウ
ムもナトリウムも増えて、技術的にもどんどん難しくなっていきます。危険もますます
高まることにもなります。
 ナトリウムの火災事故で、もう十年以上「もんじゅ」は止まっているけれど、「もん
じゅ」を再開したからといってすぐに高速増殖炉が完成するかというと、そんなことは
実はないわけでありあります。その「もんじゅ」すら、今は止まってしまっているとい
うことで、高速増殖炉の実現への道筋は今、見えないわけです。
 もう一つは、高レベル放射性廃棄物、あるいは使用済み核燃料などの放射能物質をど
うやって処理するかというのが残念ながら今の日本では確立しておりません。すでに日
本は、海外に使用済み核燃料の再処理を委託してきていますが、その海外での再処理か
ら出てきた高レベル放射性廃棄物は、ガラス固化体といって、溶けたガラスで固めて放
射性物質を閉じこめています。それを六ヶ所村で一時貯蔵しています。

 数十年かけて冷やしたガラス固化体は、地下数百メートルに埋めて、最初の三百年ぐ
らいは人間がモニターしながら管理します。そしてその後は、地層処分と言われ、地層
のなかで人間社会から完全に隔絶した状態でずうっと置いておかれることになります。
 一方の再処理する前の使用済み核燃料については、いったん原発サイト内でプールに
貯蔵してあります。それから、六ヶ所村の再処理工場内の貯蔵施設に移して再処理する
というのが現在の方針です。
 使用済み核燃料を再処理せずにそのまま最終処分する手段もあります。これをワンス
スルーなどと呼んでいます。使用済み核燃料のままでも高レベル放射性廃棄物でも、い
ずれにしろ最後は地層処分しなければなりません。
 しかし、最終的にどこでどうやって処理するか、日本では決まっておりません。とい
うのは、地中深く埋めるわけですけれども、地震があったりしてそこに埋めたものが動
いて放射能が漏れるということがあってはいけませんし、そのへんに地下水があったり
温泉があったりすると、水に乗って地上に出てきてもいけない。これぐらいの島国で、
やたら火山がいっぱいあって、地震もいっぱいあって、温泉もいっぱいあるところで、
どうやってこれを処理するかという処理方法が残念ながら、決まっていません。本当に
決まるんでしょうか。

注1)原子力発電所では、ウランに核分裂を起こさせて、発生する熱で水蒸気をつく 
  り、タービンを回転させて発電している。
注2)福井県敦賀市にある高速増殖炉の原型炉。1994年に臨界を達成し、1995年8月に初
 送電を行う。同年12月ナトリウム漏れ事故を起こし、その後現在まで停止している。


■溜まり続けるプルトニウム
 その処理方法の話は若干後回しにするとして、問題はこの夢の核燃料サイクル。プル
トニウムを取り出すところまでは何とか来たけれども、プルトニウムを燃やす高速増殖
炉がなかなかできません。
 ここで、普通の政府ならどうするかといえば、高速増殖炉ができるのを一生懸命応援
をして、早く技術を確立しようということになると思うんですね。高速増殖炉がなけれ
ばプルトニウムを燃せないわけですから、プルトニウムを作ってみても始まらない。使
用済み核燃料を再処理したって、再処理してできたプルトニウムをどうするか。どうし
ようもないわけです。
 普通、常識的なら使用済み核燃料を50年間とりあえず中間貯蔵しておくでしょう。計
画によれば50年経ったら高速増殖炉ができるわけだから、そうなったら再処理を始めて
プルトニウムを取り出して、プルトニウムを高速増殖炉で燃やそうじゃないか。そうす
れば日本は中近東にエネルギーを頼らなくてすむと、まあ、そういう決断に本来ならな
るのではないかと思ったのですが、なかなかそうならないのがこの国の不思議なところ
でありまして、高速増殖炉が50年経たないとできないのだけれども、再処理だけはどん
どんやろうと言って、六ヶ所村に再処理工場を造った。
 お隣りの北朝鮮で、プルトニウムっていうのが今50キロ、まあ、人によっていろいろ
な説がありますが、どうも50キロくらいプルトニウムがあると言われていますが、北朝
鮮が50キロのプルトニウムを入手したらどうなったかというと、六カ国協議です。六カ
国協議でアメリカもロシアも中国も韓国も日本も参加して、大騒ぎをやっているわけで
あります。
 今日本が保有しているプルトニウムがどれくらいあるかというと、約40トンが海外に
あります。イギリス、フランスに使用済み核燃料の再処理を頼んで、とにかくプルトニ
ウムを取り出して高速増殖炉をやるんだといって、お願いをしていたんだけれども、高
速増殖炉はできないで、プルトニウムだけできちゃいました。こういう状況で、このプ
ルトニウムはいったい全体どうすんねんと。この他に日本国内に数トン。キロじゃない
ですよ、トンですからね。50キロで六カ国協議だと、4万キロあったら、何千カ国協議
くらいのことをやらないと(笑)。国連がいくつあっても足らないよっていう感じで。
 まあ、40数トンといっても、国内には数トンですが、返してくれと言ったら40トン返
ってきますし、いや言わなくてもいずれ返ってくるでしょうし、北朝鮮とは少なくとも
桁が違う。桁が違うというか、単位が違うぐらいのプルトニウムを、日本は今、国内外
に保有しているわけであります。
 できちゃったプルトニウムが40数トンありますということで、普通に考えるならば、
この40数トンどうしましょうっていう話になるわけであります。ところがその六ヶ所村
の再処理工場でどれくらいのプルトニウムができるかというと、1年間に8トンできると
言われていますから、本格稼動すると、今持っている40数トンにプラスして、年に8ト
ンずつプルトニウムが増えていっちゃう。
 今40数トンあるのが、来年50トン超え、再来年60トン、その次は70トン近くなる。そ
ういうことになってしまう。これ、何の意味があるのでしょうか。実はウランよりもプ
ルトニウムのほうが、テロリストフレンドリーなんですね。私もあまり詳しくはないの
ですが、プルトニウムというのは、例えば、吸い込んで肺にプルトニウムが入ると致命
的なんだそうです。ところが、そうでもしない限りプルトニウムは持ち運びに便利な核
物質なんだそうです。ウランを持ち運ぶよりはプルトニウムを持ち運んだ方が、よっぽ
ど安全だと。
 そうすると、そんなテロリストフレンドリーなものを日本に何十トンも保管しておい
て、しかも日本はどういう保管形態か、これはどういう保管形態というのは機密になっ
ているからあまり言わないことになっていますが、おそらく、テロリストからしてみる
と非常に好都合に丸腰の警備員が守っているような警備形態になってるだろうと。
 実はこのプルトニウムというのはロシアもその核兵器を解体して、プルトニウムを取
り出して、そのプルトニウムを持っているという状況になっているのですが、アメリカ
政府はロシアに対して、取り出したプルトニウムは必ずスパイクしろと言っている。
 スパイクしろっていうのはどういうことかというと、純粋なプルトニウムだとテロリ
ストフテロリストフレンドリーで持ち運びしやすいから、このプルトニウムを、もっと
汚い核物質で汚せと。つまり、放射能レベルを高くするわけです。そうすると汚された
プルトニウムはなかなかテロリストも運びにくいから、プルトニウムをきれいなままで
保管をするなと。このプルトニウムを必ず汚せという申し入れを、アメリカはロシアに
かなり強硬にしています。
 日本もこのプルトニウムをいや、ウランと混ぜていますと言うんですが、専門家は日
本のやり方はだめだと。日本のやり方だと化学処理したら全部プルトニウムが分離でき
ちゃうような混合形態になっているんで、それはとてもスパイクしているとは言えない
状況にあるのだそうです。
 これは国際的に見てもさすがに許されない状況です。テロリストのターゲットにな
る、核兵器の材料になるような物質を日本だけが野放図に、使用目的もないのにどんど
ん溜め込みますなんていうのはですね…、北朝鮮はミサイルを上げたときに人工衛星と
言っていたわけですが、日本だって人工衛星を上げているわけで、人工衛星上げている
国がプルトニウムをこれだけ持っていりゃ、そりゃ六カ国協議やりたくもなりますわ
ね。


■敗戦処理としてのプルサーマルと莫大なコスト
 日本は被爆国だから自分は決して核兵器を持たないと言っているのですが、他の国は
本当はどうかなと思っているかもしれません。とにかくこの再処理でできたプルトニウ
ムを使わなければいけないというので、しかたなく、ここで出たプルトニウムをウラン
燃料と混ぜて、MOX燃料というものを作って燃やすことにしました。
 MOX燃料とはウラン9にプルトニウム1くらいの割合で混ぜたものですが、これを普通
の原子炉で燃やすのがプルサーマルです。プルサーマルっていうのは何のメリットがあ
るのかというとですね、ウラン燃料が節約できるんですと関係者は言っているわけで
す。ウランは貴重な物質だから、プルトニウムと混ぜることによってウラン燃料が節約
できますと。
 だけど、節約できるったってプルトニウムが最大1割くらいしか混ざらないのです。
プルサーマルでのウランの資源節約効果は約1割です。最初に言っていた核燃料サイク
ルはプルトニウムを高速増殖炉で燃やすから、投入量以上のプルトニウムが産出される
ので、長期間にわたり日本のエネルギー源は確保されます。でもプルトニウムをウラン
と混ぜてMOX燃料にしてプルサーマルで燃やしたら、プルトニウムが混ざった分だけウ
ランが節約できるという話で、ウランが1割節約できるだけです。
 今や、わが国はこのMOX燃料を作ってプルサーマルで燃やすことを核燃料サイクルと
言い始めたんですね。おいおい核燃料サイクルって、プルトニウムが高速増殖炉で増え
るのが核燃料サイクルだろと。ウランを1割節約するのが、何で核燃料サイクルなんだ
と。要するに、高速増殖炉はあまりできそうにない。少なくともこの50年はできないと
政府も認めちゃったわけですから、困って、MOX燃料をプルサーマルで燃やすことを核
燃料サイクルと言い始めた。
 この核燃料サイクルで何ができるかというと、ウラン燃料が1割削減できるわけです
が、この再処理をするために莫大なコストがかかります。政府の見積もりで19兆円トー
タルでかかると言っています(注3)。ただし、六ヶ所村の再処理工場を造るのに、予
算では7千億円と言っていたのが、完成したら2兆円を越える費用がかかった。3倍かか
っているわけですから、19兆円かかりますというのを3倍すると60兆円くらいかかっち
ゃうわけです。60兆円かけてウランの1割節約をやることに何か意義がありますか。そ
れならば60兆円の何分の1かでウランを買って備蓄したほうが安いです。
 このプルサーマルというのは、まったく敗戦処理なんですね。やろうと思った本当の
核燃料サイクルができなくて、プルトニウムが余っちゃったんで、このままにしておく
と、使用目的のないプルトニウムを何で持ってるんだと言われるんで、MOX燃料と混ぜ
てプルサーマルをやりますという完全に敗戦処理、要するに当初の計画通りにはいきま
せんでしたということなんです。でも、今、電気事業連合会なんかは胸を張ってわが国
は核燃料サイクルを始めますと言ってます。嘘つけっていう感じであります。
 で、プルサーマルをやろうと思ったら、このMOX燃料も試験データがでたらめで、1回
ボツになった。まだこのプルサーマルは始まっておりません。まだこの40トン以上ある
プルトニウムをプルサーマルで燃やし尽くしましょうということも始まっていません。
まだ燃やし尽くしてないというんじゃなくて、まだ燃やし始めてない状況なのに、さあ
これから毎年8トンものプルトニウムを取り出そうという計画に何か意義があるんです
かね。
 政府、大本営発表19兆円ですからね。大本営発表19兆円でたぶん60兆円くらいの金が
かかる新規の再処理をこれからやる意味が何かあるのかといえば、おそらく私はないと
思います。これが高速増殖炉ができましたというならば、まったく別な議論をしなけれ
ばならないわけですが、少なくとも高速増殖炉がない以上、プルトニウムを金かけて取
り出す必要はまったくない。今あるんですから、40数トンも。とりあえずこの40数トン
を処理するのが先だと思います。
 そして40数トンのプルトニウムを処理するためにはプルサーマルで燃やすしかありま
せん、だからしょうがないからプルサーマルやらしてくださいというなら、まずプルサ
ーマルで40数トン燃やして、ここで一度プルトニウムはなくしますということにすべき
なんじゃないでしょうか。で、高速増殖炉ができたら改めて使用済み核燃料の再処理を
始めてプルトニウムを取り出してこの本当の核燃料サイクルをやるかどうか議論しよう
じゃないかというのが、私は政策的には正しいと思っております。

注3)2003年11月11日の総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)電気事業
  分科会の小委員会で電気事業連合会から再処理の総費用として18兆8千億円という
  数字が示され、これが政府の再処理コストの見積もりの基礎となっている。


■使用済み核燃料が溢れる貯蔵プール
 ところが今そうなってない。それはどうしてそうならないのかというのが、非常にや
やこしいところで。もちろん高速増殖炉ができたから、じゃあすぐ核燃料サイクルが始
められるかというとですね、例えば高レベル放射性廃棄物の処理をどうするのかそうい
うことも決まらない段階で簡単にはやれないと思いますが、少なくとも高速増殖炉がで
きなければそんな議論もやる必要はないわけであります。
 なぜ今、政府、電力会社、与野党の議員…、この間民主党もやるんだと決定をしそう
になって、民主党よお前もかと(笑)、その前に自民党をなんとかしろと言われちゃい
ますけど(笑)。なんでこういうことをやろうとしているかというとですね、今の原子
力発電所、ウラン燃料を投入すると、使用済み核燃料が出ます。この使用済み核燃料を
プールにためてるんですね。貯蔵プールと呼ばれるものの中に。この貯蔵プールという
のは原子力発電所のそばにあるわけですが、この原子力発電所のそばにある貯蔵プール
の中に使用済み核燃料をためております。

 ところが、問題はこれがどんどんたまっていっちゃうわけです。福島あたりの原発は
もうそろそろ限界に来ている。貯蔵プールが一杯になると、燃えかすを出せなくなっち
ゃいますから。燃えかすを出せなくなるということはどういうことかというと、燃やす
なということですよね。使用済み核燃料で貯蔵プールが一杯になっちゃうと、その原子
力発電所は止めないといけなくなる。止めると電力会社は一日あたり1億円って言った
かな、その程度の損失になるそうです。で、電力会社は焦っているわけです。
 このままいくとこれは止まってしまう。何とかせねばいかん。で、どうするかという
と、ここに天の助けがあるわけですね。なんと六ヶ所村の再処理工場には貯蔵プールが
あります。それはそうですよね。使用済み核燃料を再処理するわけですから。どんな工
場だって原材料を置かなければならないわけだから。
 電力会社が考えたのは、あるいは経済産業省が考えたのは、原子力発電所のそばにあ
る使用済み核燃料の貯蔵プールに入っているものを、六ヶ所村の再処理工場の貯蔵プー
ルに移しましょう。そうすれば、原子力発電所のそばの貯蔵プールは空くわけですか
ら。そうすると原子力発電所を止めずに操業することができる。これはいい考えだから
せっせと移そうと思ったら、実は世の中そうはうまくいかなかった。これで出てきたの
が青森県。
 青森県いわく、ちょっと待ってくださいよと。うちはごみ捨て場じゃありませんか
ら。貯蔵プールに使用済み核燃料を持ってくるんだったら、これは必ずこの再処理工場
で再処理されて、製品になるんでしょうねと。再処理工場が動かないのに、貯蔵プール
だけ使ってそこへ全国各地の原発で出た燃えかすを持ってきて、青森県にボンと置い
て、ああよかったと、うちのプールがきれいになったということでは困りますよと。
 だから青森県は使用済み核燃料を六ヶ所村の再処理工場の貯蔵プールに持ってくる以
上再処理工場を稼動してくださいという条件を付けました。ここに入ったものが単なる
ごみではなくて、工場の材料なのだということを明確にしてください。そうでない限
り、ものを持ってくるのは困りますというのが、青森県と電力会社、あるいはそこに経
産省も絡んで、そういう約束になっている。だから使用済み核燃料を貯蔵プールから六
ヶ所村へ持って行くためには、再処理工場を動かさないといけない。
 持っていけないと原子力発電所が止まって、原子力発電所が止まると、電力会社は損
失が出ますから、結論から言うと、じゃあ再処理工場を動かすしかないじゃないかと言
うんで、プルトニウムが40数トンプラス毎年8トンという現状になってしまったわけで
す。
 実はこの貯蔵プールを使わない保管のやり方があって、貯蔵プールを使うのは湿式。
もう一つは乾式。要するに地上で、使用済み核燃料を保管させてください、そういう技
術が実は確立されている。貯蔵プールの代わりに地上でやらしてくださいと言えば、ま
だ余裕はあるわけです。
 あるいは全国の貯蔵プールには一杯のところと空いているところといろいろあって、
上手く使えば後二十年は一杯になることはないという研究も発表されました。だからや
り方はいろいろあるんです。
 だからこの貯蔵プールが一杯になる前に、乾式貯蔵にするなり全国の貯蔵プールを上
手く使うなりなんなりして、とにかく使用済み核燃料は今後50年間、中間貯蔵ですと。
50年間待ってみて、高速増殖炉をやるかどうかけりつけましょうと。30年待って50年待
ってできなかったら、もうあきらめた方がいいでしょうと。
 50年後にひょっとすると高速増殖炉ができて、使用済み核燃料を再処理してプルトニ
ウムを取り出そうということになるかもしれないから、とりあえず50年は使用済み核燃
料を中間貯蔵させてくださいと。50年経ったところでそこは判断をしようじゃないです
かということに国の政策を変えて、とにかく50年間は使用済み核燃料を中間貯蔵するん
ですということにすれば、何もこんな再処理工場を稼動させてプルトニウムを取り出す
必要はないんですね。


■やめたくてもやめられない政治家・官僚・電力会社の三すくみ
 実は2004年頃に経産省の中にも核燃料サイクルがおかしいと思っている一派がいて、
そこがクーデターを試みて失敗したことがありました。
 電力会社は核燃料サイクルに関連して、引当金を無税で積んでいるんです。今、電力
会社が再処理やめますと言うと、無税で引き当てたお金に対して、財務省から課税しま
すと言われたら、何千億円にもなるので、とても払えません。だから電力会社としては
自分からやめるとは言えないんで、経産省さん、言ってくださいと。
 経産省は、役人は間違わないという伝説を守らなきゃいけませんから、うちは電力会
社が頭下げてきたら、そうかしょうがねえなあと、電力会社がそう言うんだったら、う
ちはいいよと言うしかないと。ところが、電力会社は言えない。経産省からも言えな
い。お互い、言えない。さらに与野党の原発関連地域の議員は、補助金が来るのに止め
たら補助金が止まる、それは止めるなという三すくみで、物事が止まらない。
 だからいいじゃないですか、その補助金しょうがない、約束しちゃったんだから補助
金払うから、これでさっきのフダさんの話(注4)じゃないけれど、公共事業でもなん
でもとりあえずやりなさい。で、電力会社が無税で引き当てたやつは無税で引き当てと
いていいから、経産省ももうわかったからということにして、とにかく止めろと言える
のは政治しかないんですね。政治が出ていって、もうわかった。お互い悪くないことに
してあげるから、ほんとは悪いんだけど(笑)、誰が悪いかなんて議論をするよりもみ
んなで手を引けっていうのが、一番いいんだと思ってます。
 止めようと思ったらもうこれは政治が出ていくしかありませんが、自民党は電力会社
から金を貰ってますから、なかなか止められない。それから原子力発電所の補助金を貰
っている議員が、とにかく絶対再処理をやってもらわなくては困る。うちの原発が止ま
ったら補助金が…。
 それから民主党は電力会社の労働組合に選挙でお世話になってますから、民主党も再
処理はやりましょうという党の政策を取りまとめてます。

 という状況で、これはやっぱりこのままにはできないと思います。これ、ほったらか
しておけば大本営発表19兆円。おそらく60兆円くらい国民負担ですから。払うのはみな
さんですから。みなさんの電力料金に上乗せされることになりますから。別に国会の議
決もいらないままお金が取られるということになるわけであります。
 やっぱりこの問題もう少し、ちゃんと国民の前で議論をして、これはやっぱりどう考
えても、理屈合わないよねということにしなければならないかなあと思っております。
ちょっと喋りすぎましたんで、あとはみなさんの方からご質問があれば、お受けをさせ
ていただきたいと思います。どうもありがとうございました。

(注4)講演が始まる前の主催者挨拶において、電源三法交付金、固定資産税など地元
   自治体にもたらされる巨額の「核燃マネー」と、それが引き起こす利権の問題に
   ついて言及した。


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