簗田明博氏の県南新聞掲載記事

産科医無くても子供はできる!

困っている妊婦を知恵で助けよう

知事が泣いても医者は来ない!

 私の好きな三村申吾青森県知事が涙声で訴えたという。「地方交付税の総額確保を、
伏して伏してお願い申し上げる」と。九月末、自民党県連定期大会で挨拶に立った三村
知事の開口一番の声だという。いつもなら笑顔で祝辞を述べる場面なのに悲壮感さえ感
じたと目撃者が語った。お願いされた国会議員たちに知事の心は届いたのだろうか。
 身近で切実な問題があまりに多いので忘れられがちだがもうひとつ、知事が必死の思
いで頭を下げ歩いているのがいわゆる産婦人科不足問題だ。わが十和田中央病院も野辺
地病院も七戸病院も産科医が不在になって久しい。人が生活すれば当たり前のように子
供は出来るのに、妊婦も家族も八戸・三沢・五戸と産める病院をさがしまわっている。
東京や大阪で青森出身の産科医に呼びかけた。弘前大学で学生に呼びかけた。北里大学
との連携を模索してみた。だがいくら知事が汗をかき涙を流しても無い袖は振れないわ
けで、打開策は未だ見つからない。

飛び込み出産は妊婦も病院も苦

 奈良県で救急車に乗った妊婦が、病院からつぎつぎと診療を拒絶をされた事件は記憶
に新しい。一年前にも問題が起きたのに奈良県が何ら手を打たなかった事も明るみにな
り批判を浴びた。その一方で妊婦が定期検診を受けておらず、いわゆるかかりつけ医も
持っていなかったことが判明し、これもまた別の問題として浮かび上がった。
 国民の多くが生活苦にあえいでいるのだから、妊婦ともなれば尚更だろう。経済的に
もそうだが核家族化の後遺症から、母親や祖母のアドバイスやサポートを受けられない
妊婦が増えている。知恵も経験も不足し孤立する女性の不安たるや想像に難くない。
 一般的には懐妊してから八ヶ月目くらいまでは毎月一回の検診が、その後は毎週一回
の診察が欠かせないと聞いた。そこで胎児の成長具合を確認し、問題は早めに発見し対
処する。定期検診をおろそかにしたり、かかりつけ医を持たなかったりで、いわゆる飛
込み出産をした場合、妊婦と胎児の状況を把握するまで時間がかかり危険が増す。医師
も避けたくなるのが当然だが、妊婦にも苦しい事情がある。

身近なことから妊婦を支えよう

 産科医を新たに確保する事が困難な今、私たちは手をこまねいているだけでいいのだ
ろうか。一番困っているのは妊婦さんなのだから、彼女たちに何か具体的に手を差し伸
べることは出来ないものだろうか。そう苦悩しているところにうれしい話を耳にした。
岩手県軽米町の知人の自慢は特産のアワ・ヒエ・キビなどの雑穀、木炭にサルナシに縄
文遺跡などだが、それに自慢がひとつ加わった。妊婦サポートの妙策があると言うの
だ。
 隣接の二戸市にある県立二戸病院が扱うお産は年間約四百件。以前の十和田中央病院
と似た規模だがそのうち七十件以上はいわゆる遠距離からの妊婦さんだという。不安を
抱える妊婦さんにとって、遠いというだけでそれは時間的にも肉体的にも精神的にもさ
らに経済的にも大変な負担だ。
 二戸病院から車で五分ほどの金田一温泉の「旅館ふじ」が、出産間近の女性へ特別料
金サービスを始めたというのだ。一泊二食付で通常六千円のところを、四千円でいいと
いう。しかも(食費は別だが)同伴者は無料で泊まれると、妊婦にも家族にも優しい気
配りなのだ。
 産婦人科医を求め、知事に限らずどこの首長も病院長も手は尽くしているが絶対数が
足りない。誰もがわかっているだけに「仕方がない・・」で済ませがちだが、医者がい
ない町にも妊婦はいる。だから「自分で出来るところから応援しよう」というこの女将
さんの行動はすばらしい。

出来ることはこんなにある

 身の丈にあった知恵と工夫の一例だが、利用する妊婦さんの安堵の声が容易に想像で
きる。またこれくらいならうちでも協力出来るという宿も名乗りでそうな気がする。今
回は旅館側が身銭を切ってのサービスらしいが、差額を自治体が負担するという手もあ
る。
 仮に二千円を四百人の妊婦に延べ十日間負担して、八百万円だ。十回の定期検診に交
通費を補助したらどうだろう。仮に一万円×四百人×十回で四千万円だ。
 八戸市民病院は、市外からの妊婦に対し分娩費用を割り増し料金にしたと記憶してい
る。その割り増し分をそっくり市が補填したらどうだろう。かりに十万円として四百人
分で四千万円だ。こんなプランが話題になったら妊婦さんの不安もずいぶん柔らぐだろ
うし、お父さん候補も子作りに精が出るだろう。

無駄を削れば原資は豊富だ

 とまあ、こういう提案をすると「原資はどうする」と異論が出る。なあに心配は無
用。どこの自治体にも「お産支援」より優先度の低い支出はいくらでもあるからそれを
削ればいいだけのことだ。
 十和田市ならなお単純で明快だ。市民が望みもしないあっちの事業、腹の足しにもな
らないこっちの施策をひとつ二つやめれば良いだけのことだ。何なのか思いあたらない
って?そんな呑気な読者はいないと思うがなあ。お金を優先的にかけるべきは、一に病
院、二に経済。心に余裕ができたら居間に絵の一枚でも飾ろうかな。
 そうそう二戸のおもてなしの宿は「妊婦さん応援の宿」と名づけたそうだ。


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